日本の少子化を考えるとき、私たちは「出生率」という数字ばかりを見ていないだろうか。
自分は先日、個体群生態学を専門とする齊藤隆先生がWEDGEに寄稿した記事を読んだ。
その記事では、人口減少を考えるうえで非常に興味深い「アリー効果」という生態学の概念が紹介されていた。
さらに齊藤先生は、少子化対策の一つとして「0歳からの選挙権」という大胆なアイデアも提案している。
自分はこの記事を読み、少子化を単なる社会問題や経済問題としてではなく、生物の個体群が減少する現象として考えてみる必要があるのではないかと思った。
ここからは、齊藤先生の記事から得た知識をもとに、自分なりに日本の人口減少について考えてみたい。
「減れば自然に回復する」は本当か
生物の個体数は、増えすぎれば環境の制約によって増加が鈍り、やがて一定の水準に近づいていく。
これが、いわゆるロジスティック式で説明される考え方である。
この理論に従えば、個体数が減少すれば環境に余裕が生まれ、やがて再び増加することが期待できる。
しかし、現実はそれほど単純ではない。
齊藤先生の記事では、保全対策が続けられてきた海洋生物35種、230個体群を調査した研究が紹介されている。
そこでは、捕獲を制限しても83%の個体群が回復していなかったという。
そこで重要になるのが、「アリー効果」である。
しきい値を下回ると「絶滅の渦」に入る
アリー効果とは、個体数が少なくなりすぎると、個体の生存率や繁殖率まで低下する現象である。
一定の個体数を上回っている間は、個体群は維持される。
しかし、ある「しきい値」を下回ると、個体数の減少がさらなる減少を生む。
たとえば、オオカミの群れを考えてみる。
10頭なら協力して狩りができても、5頭まで減れば、十分な獲物を捕らえられなくなるかもしれない。
餌を得られない。
体力が落ちる。
生存率や繁殖率が下がる。
そして、さらに個体数が減る。
個体数が減る
↓
集団としての能力が低下する
↓
生存率・繁殖率が下がる
↓
さらに個体数が減る
この負の連鎖が、絶滅へ向かう「渦」を生み出す。
齊藤先生の記事では、現在の出生率や死亡率が続くと仮定した場合、日本人は約1,933年後に絶滅するという試算も紹介されている。
もちろん、これは将来を正確に予測する数字ではない。
重要なのは、人口が減り続ければ、人口減少そのものがさらなる人口減少を生み出す段階に入る可能性があるということだ。
自分は、この考え方を日本の少子化に当てはめて考えてみたい。
齊藤先生が提案する「0歳からの選挙権」
齊藤先生の記事で、特に印象に残ったのが「0歳からの選挙権」という提案だった。
もちろん、0歳児が自分で投票するわけではない。
親などが代理投票する仕組みを想定している。
この制度によって、明日から出生率が上がるわけではない。
住宅費が下がるわけでも、教育費がなくなるわけでもない。
しかし、この提案の本質は、子どもを持つ家庭の政治的な存在感を高めることにあるのだと思う。
0歳から17歳までの子どもにも選挙権があれば、政治家はその世代の存在を無視できなくなる。
子どもが1人いれば1票。
2人いれば2票。
3人いれば3票。
親などが代理投票する仕組みであれば、子どもを持つ家庭の政治的な影響力は大きく変わる。
これは、単純に子どもを持つ家庭を優遇するという話ではない。
人口減少によって政治から見えにくくなっている未来世代を、政治の中に戻すという考え方である。
なぜ「0歳からの選挙権」が少子化対策になるのか
自分は、齊藤先生のこの提案を考えながら、今の若者が感じている閉塞感について考えた。
今の世の中は、年寄り主体になっている。
若者にはお金がない。
政治を動かす力もない。
自分たちの声を届ける場もない。
この閉塞感に、若者は疲弊しているのではないだろうか。
その感覚を打ち消すために、最も安く、最も簡単にできる方法の一つが、選挙権を0歳から導入することではないかと思う。
もちろん、0歳からの選挙権だけで出生率が上がるわけではない。
しかし、
0歳からの選挙権
↓
未来世代の政治的影響力が増す
↓
若者や子育て世代を政治が無視できなくなる
↓
未来への投資が増える
↓
若者が社会に希望を持てる可能性が高まる
という流れは考えられる。
若者に「子どもを持て」と求める前に、まず若者自身が「自分たちも社会を変えられる」と感じられる仕組みをつくる必要があるのではないだろうか。
人口減少の「絶滅の渦」から抜け出すために
齊藤先生の記事で紹介されていたアリー効果を、日本の人口減少に当てはめて考えるなら、人口減少は単なる数字の問題ではない。
人口が減る。
社会を維持する力が弱まる。
地域が衰退する。
若者の声が小さくなる。
未来への投資が弱まる。
そして、さらに子どもが減る。
この負の連鎖が、人口減少の「絶滅の渦」につながるのだとすれば、日本は今、少子化を単なる出生率の問題としてではなく、社会全体の構造問題として考える必要がある。
齊藤先生が提案する「0歳からの選挙権」は、その構造を変えるための一つのアイデアである。
自分は、この提案を知り、人口減少社会においては、未来を担う世代の政治的な存在感を高めることが必要なのではないかと考えた。
未来を担う世代に政治的な声を与える。
それは、子どもたちのためだけではない。
社会全体を、未来に向けて動かすための制度改革でもある。
日本が人口減少の渦から抜け出せるかどうか。
その答えは、私たちが未来を担う世代を、どれだけ政治の中心に置けるかにかかっているのではないだろうか。
