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はじめに
清原達郎さんの保有銘柄を、保有額が大きい順に自分のNC比率ルールで読み解いていくシリーズ。今回は田辺工業(1828)。
この銘柄、数字を見ただけだと自分のNCリストには絶対に引っかからない。NC比率0.66倍で、清原式の基準(1.50倍)には遠く及ばない。でも調べていくうちに、一番気になったのは会社の数字そのものより、清原さんの態度だった。会社四季報オンラインに掲載されたインタビュー(2026年4月24日)で、田辺工業をまだ割安な成長銘柄だと評価しながら、同時に自分自身の運用はもう区切りをつけたとして、売却を進めていることを明かしている。
割安だと思っているのに、売る。この矛盾に見える行動の裏に何があるのか、というのが今回の軸。
① 財務・NC比率で見る田辺工業
まず入口のNC比率から。
| 項目 | 金額・数値 | 備考 |
|---|---|---|
| 流動資産合計 | 34,810百万円 | 2026年6月30日現在 |
| 投資有価証券 | 843百万円 | 四半期で単独開示あり |
| 負債合計 | 18,630百万円 | 流動17,109+固定1,521 |
| 時価総額 | 25,318百万円 | 株価2,360円×発行済株数10,728,000株 |
| NC比率 | 0.66倍 | 清原式基準1.50倍を大きく下回る |
NC比率だけ見ると、正直「対象外」の一言で終わってしまう水準。でも同じ会社をPER・PBR・ROE・配当利回りで見ると、印象がまるで変わる。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| PBR | 0.89倍 |
| PER | 9.18倍 |
| ROE | 13.0% |
| 配当利回り | 4.24% |
資産の厚みで守られているわけではないけど、収益力と株主還元の水準で見ると、決して割高ではないというより、むしろ見過ごされているんじゃないかと思わせる数字が並ぶ。NC比率という「入口」だけで判断していたら、この会社はここで終わっていたと思う。
② 本業は稼げているのか
NC比率が低い会社を検討するときに一番大事なのは、資産の厚みではなく本業の稼ぐ力だと思っている。ここが弱ければ、現金は時間とともに目減りしていくだけだから。
田辺工業は新潟を地盤とするプラント設備工事会社で、直近の四半期は受注・売上・利益がそろって伸びている。
| 項目 | 今期実績 | 前期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 12,822百万円 | +10.0% |
| 営業利益 | 1,095百万円 | +34.8% |
| 経常利益 | 1,125百万円 | +34.4% |
| 当期純利益 | 744百万円 | +33.2% |
売上総利益率も17.2%から19.4%まで改善していて、施工効率や原価管理の徹底が効いているように見える。一方で通期の会社予想は経常利益で前期比18.9%減という保守的な水準のまま据え置かれていて、第1四半期だけで通期予想の約29%を稼いでしまっている。
設備工事業は下期に工事の進捗や検収が偏る季節性があるから、これだけで「上方修正確実」とは言い切れないけど、期初予想が保守的すぎる傾向があるなら、上振れの余地は相応にありそうだなと思う。
③ 資本政策・株主構成が語ること
ここが今回、一番時間をかけて考えたところ。
大株主を見ると、デンカ(9.48%)と信越化学(8.19%)という2社が上位にいる。この2社は同時に田辺工業の主要取引先でもあって、完成工事高の21.0%をデンカ1社が占めている。
つまり「取引先=大株主」という、事業と資本がそのまま重なった構造になっている。安定受注の土台であると同時に、顧客が集中しているリスクそのものでもある。
もうひとつ気になったのが経営体制。会長は85歳で、1998年から25年間社長を務めたあと2023年にようやく会長職に退いた。社長も同じ2023年に就任したばかりで71歳。世代交代がようやく始まったばかり、という段階に見える。
ここで自分が引っかかったのが、この2社の政策保有株。東証はコーポレートガバナンス・コードの改訂で政策保有株の縮小を求めているけど、これは「持つ側」と「持たれる側」で力学がまったく違う。
デンカ・信越化学が田辺工業株を手放すかどうかは彼ら自身の方針次第で、田辺工業の経営陣がどれだけ若返っても直接コントロールできる話ではない。
逆に田辺工業自身が政策保有株を持っているなら、その解消は自社のガバナンス次第。ここは有報で投資有価証券843百万円の内訳(銘柄・保有目的)がまだ確認できていなくて、次の宿題として残っている。
④ なぜこの株は放置されているのか
自分の最初の仮説は「現状維持と古い体質」というシンプルなものだった。数字を見たあとの今も、この仮説はそこまで外れていないと思う。ただし解像度は上がった。
業績自体はむしろ良くなっている。それでも株価が評価されていないのだとしたら、原因は業績ではなく、株主還元やガバナンスの姿勢が古いまま止まって見えることなんじゃないか、という方に仮説が寄ってきた。
会長85歳・社長71歳という体制が続く限り、外部の投資家からは「変わる会社」というより「変わらない会社」に見えてしまう。ここが解消されるかどうかが、放置状態が続くか動き出すかの分かれ目になりそうだ。
⑤ 清原さんの実際の動き
ここが今回の記事の出発点。
会社四季報オンラインのインタビュー(2026年4月24日)の中で、清原さんは田辺工業を含む3銘柄について、まだ割安でエクセレントカンパニーだと評価している。特に田辺工業については「立派な成長銘柄」だと言い切っていて、本来売る必要のない銘柄だとまで書いている。それでも、自分の運用者としての時間はもう終わったという理由で、売却を進めていることを明かしている。割安だと思っている銘柄を、それでも手放す。
これは「この会社の投資価値が下がったから売る」というより、「自分自身の投資家としてのフェーズが変わったから降りる」という、会社の評価とは別の理由での撤退に見える。
だとすると、今この株価には清原さんが降りていく過程での需給の重さがまだ乗っている可能性がある。株価がまだ本当の意味でフラットな水準に戻っていないかもしれない、ということ。
⑥ 自分の結論
NC比率だけ見れば0.66倍で即座に対象外。
でも本業の収益改善、PBR0.89倍・配当利回り4.24%という水準、そして清原さん自身がまだ「割安」と評価していることまで含めると、単純に切り捨てていい銘柄ではないと思うようになった。
とはいえ、今この株価(2,387円)で自分が追随して買う理由はない。
清原さんが「試合終了」として降りていく過程にある以上、その需給の重さが抜けるのを待つほうが理にかなっている。
2023年初頭の株価が1,000円台だったことも踏まえて、1,900円台まで下がってきたら、その時点の業績・予想EPS・NC比率・配当利回りをもう一度並べ直して、投資候補として再検討するつもりでいる。
今回学んだのは、NC比率という入口の数字だけで会社を判断すると、収益力や株主構成、そして「その銘柄を持っている有名投資家が今どう動いているか」という需給の潮目まで見落としてしまうということ。
清原式は入口であって、そこから先をどこまで掘れるかが本当の勝負なんだなと、あらためて感じた記事だった。
