マーケット分析

日本に5つの取引所がある。でも実態は「1強と弟たち」だ

地方取引所のユニークな存在意義と、バリュー投資家にとっての意味

① 5つある、でも99%は東証

日本には現在、東京・名古屋・福岡・札幌・大阪(先物専門)の5つの証券取引所が存在する。

多いと思うかもしれない。でも実態はシンプルだ。

株式取引の99%以上は東証に集中している。東証と大阪取引所を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)が、事実上この市場を支配している。名証・福証・札証の売買シェアは合計しても1%未満。規模の話をすれば、「5つの取引所」ではなく「1つの巨大市場と3つの小さな地方市場」と表現した方が正確だ。

取引所運営主体特徴売買シェア
東京証券取引所JPX傘下株式市場の中心約99%
大阪取引所JPX傘下デリバティブ専門(先物)
名古屋証券取引所独立中部圏・製造業中心約0.02%
福岡証券取引所独立九州地場企業中心極小
札幌証券取引所独立北海道・新興企業育成極小

② なぜ弟たちは存在するのか

効率だけを考えれば、東証一本に統合した方が合理的だ。なのになぜ地方取引所は残っているのか。理由は3つある。

  1. 地方ベンチャーの登竜門
    東証への上場は基準も監査コストも高い。札証の「アンビシャス」、福証の「Q-Board」は、地方の成長企業が最初の一歩を踏み出すための市場として機能している。ここで実績を積み、東証へステップアップするという流れが存在する。
  2. 地元経済の信用インフラ
    地元に取引所があることで、地域の企業は地元の金融機関や個人投資家から資金を調達しやすくなる。「上場企業」という肩書きは、採用や取引においても地域内での信用を生む。
  3. バリュー投資家にとってのお宝市場
    機関投資家のカバレッジがなく、外国人投資家も見ていない。流動性が低く、地味で、誰も話題にしない。そういう銘柄の中に、信じられないほど割安に放置されているお宝が眠っていることがある。これは偶然ではなく、構造的な必然だ。

③ アメリカとの違い

アメリカも似た問題を抱えていたが、解決策は真逆だった。

かつてフィラデルフィア、ボストン、シカゴ、パシフィックにあった地方取引所は、ICE・Nasdaq・Cboeの3大グループに次々と買収・吸収された。名前やライセンスだけが残り、中身は完全に巨大資本のシステムの一部になっている。

日本の地方取引所が「共生」を選んだのに対し、アメリカは「弱肉強食のM&A」で統合を進めた。結果として日本の地方市場には、アメリカではとっくに消えてしまった「非効率な割安株」がまだ生き残っている。


④ 問題点——長男の声は届いているが、弟は動かない

東証は2023年、PBR1倍割れ企業に対して「資本コストを意識した経営」を要請した。

増配、自社株買い、資本政策の開示——これは上場企業の行動を変えようとする、取引所としては異例の強い圧力だった。

プライム市場では対応企業が2023年末の49%から2025年4月には92%まで拡大している。

しかし名証・福証・札証の単独上場企業には、この圧力が直接届かない。

自分が保有する中央可鍛工業(5607・名証単独)はその典型だ。売上も利益も伸びている。NC比率(清原式・流動資産+投資有価証券×70%-負債合計÷時価総額)で計算すると0.60倍。でも配当を上げる様子はなく、PBR改善に向けた資本政策にも消極的だ。トヨタグループを筆頭とする安定株主が株式の大部分を握り、外からのガバナンス圧力が届きにくい構造になっている。

すでに売却した日本乾溜工業(1771)は福証の地場企業だった。こちらも同様の構造——地方取引所単独上場・安定株主・割安放置——で長らく見過ごされてきた銘柄だ。

地方取引所の非効率は、バリュー投資家にとって非効率ではない。ただし、その非効率がいつ解消されるかは誰にもわからない。


⑤ 今後——吸収か、独立か。そして読者へ

名証・福証・札証の現状を一言で表すと、こうなる。

長男(東証)の家訓は聞いている。ROE重視、PBR改善、株主還元の強化——方針は理解している。実際、名証上場企業の8割以上はすでに東証に重複上場しており、長男の庇護の下で生きているのが実態だ。でも残り2割の単独上場企業は、家訓通りには動いていない。

今後、地方取引所は東証に完全吸収されるのか。それとも地域密着という独自路線を守り続けるのか。世界のトレンドは「統合と巨大化」だ。アメリカがそれを証明している。日本も例外ではないかもしれない。

ただ一つ言えることがある。地方取引所が独立性を保っている間は、そこに上場している単独銘柄の中に、東証の圧力が届かない割安株が存在し続ける可能性が高い。自分はその非効率を、辛抱強く待つつもりだ。


もう一つ、気づいたことがある。

NC比率が高い銘柄を探していくと、地方取引所の単独上場企業に行き着くケースが多い。これは狙ったわけではなく、スクリーニングの結果として自然とそうなった。

海外投資家にとって、東証でさえ情報の壁がある。地方取引所となればさらにハードルが上がると感じるかもしれない。英語の開示資料はほぼない。アナリストカバレッジもない。流動性も低い。

でも逆に言えば、そのハードルが割安の源泉だ。

このNOTEをきっかけに、日本の地方取引所という「もう一段深い場所」に目を向けてみると、思わぬ発見があるかもしれない。自分がそうだったように。