マーケット分析

第1部:なぜ日銀が利上げしても円高にならないのか

「金利を上げれば円安は止まる」は本当なのか?

最近、自分はずっと同じ疑問について考えていた。

なぜ金利を上げれば円安が止まるのか?

日本の金利が低く、アメリカの金利が高い。

だから投資家は、金利の低い円を売って、金利の高いドルを買う。

その結果、円安になる。

一般的には、こう説明される。

だとすれば、日銀が金利を上げればいい。

日本の金利が上がる。

日米の金利差が縮まる。

円を売ってドルを買う魅力が低下する。

円安が止まる。

最初は、自分もこの説明で納得していた。

だから、

日銀は利上げすべきだ。

と考えていた。

しかし、あるとき疑問が生まれた。

日本が0.25%利上げしても、アメリカとの金利差は残るよね?

例えば、日本の金利が2.75%になり、アメリカの金利が4.70%だとする。

それでも、約2%の差が残る。

それなら、依然としてドルを持っている方が有利ではないのか?

では、なぜ日本の利上げで円高になるのだろう?

この疑問から考え始めると、為替の仕組みは、最初に考えていたよりもずっと複雑だった。


金利差は重要だ。しかし、それだけでは足りない

まず、日米の金利差が為替に影響することは間違いない。

日本の10年国債利回りが2.77%。

アメリカが4.699%。

単純に比較すれば、約1.93%の差がある。

この差だけを見れば、

「日本円を持つより、ドルを持った方が金利を多く受け取れる」

と考えるのは自然だ。

だから、金利差は円安の一つの理由になる。

しかし、投資家が見ているのは、受け取る金利だけではない。

その通貨を持っている間に、通貨の価値がどうなるのか。

これも考えている。

例えば、

アメリカの名目金利が4.7%。

インフレ率が2.5%。

だとする。

単純化すれば、実質金利は、

4.7% − 2.5% = 2.2%

になる。

一方、日本の名目金利が2.7%。

インフレ率が3%。

だとすれば、

2.7% − 3.0% = −0.3%

になる。

名目金利の差は約2%だ。

しかし、実質金利の差は2.5%以上になる。

つまり、単純に、

「日本の金利が上がれば円が買われる」

とは言えない。

日本の金利が上がっても、インフレ率がそれ以上に高ければ、日本円を持っていることで購買力が低下する可能性があるからだ。

ここで、自分の中で金利に対する見方が少し変わった。

投資家が見ているのは、

どちらの通貨が高い金利を生むのか

だけではない。

どちらの通貨を持っていれば、将来の購買力を維持できるのか

でもある。


日銀はFRBを追いかければいいのか?

では、アメリカが利上げしたら、日本も利上げすればいいのか?

アメリカが5%なら、日本も5%にする。

そうすれば金利差はなくなる。

理屈だけなら簡単だ。

しかし、日本とアメリカは同じ経済ではない。

金利は通貨を守るためだけに存在しているわけではない。

インフレを抑えたり、景気を調整したり、企業や家計の資金調達環境を変えたりする。

日本が急激に利上げすれば、

  • 住宅ローンを抱える家計
  • 借入金の多い中小企業
  • 不動産市場
  • 借金を抱える政府

に大きな影響が出る。

つまり日銀は、

円安を止めるために金利を上げたい。

しかし、

金利を上げすぎれば国内経済を壊す可能性がある。

という難しい立場にいる。

ここで重要なのは、

「日銀は利上げすべきか?」

という問いではない。

本当の問いは、

「日本経済は、どの程度の金利を持続的に負担できるのか?」

なのだと思う。


2024年8月の暴落が教えてくれたこと

金利について考えるとき、どうしても思い出すのが2024年8月の株式市場だ。

2024年8月5日。

日経平均株価は前週末比で4,451円安となり、下落率は12%を超えた。

市場は歴史的な暴落に見舞われた。

当時、日銀の利上げや植田総裁の発言は、市場の重要な材料として受け止められた。

しかし、

日銀が利上げした。

だから株価が暴落した。

と単純化するのは正確ではないと思う。

当時の市場には、すでに不安が蓄積していた。

アメリカ経済への懸念。

雇用統計をきっかけとした景気後退への不安。

高くなっていた株価。

そして、円キャリートレードの存在。

円キャリートレードとは、簡単に言えば、

低金利の円を借りて、より高い収益が期待できる資産に投資する取引

だ。

この取引が大量に積み上がっているとき、円の金利が上昇すると状況が変わる。

円を借りているコストが上がる。

さらに、円高になれば、借りた円を返済するコストも上がる。

そこで投資家が一斉にポジションを解消すると、

外国資産を売る

外貨を円に戻す

円を返済する

という動きが起こる。

これが、株式市場やその他のリスク資産の売りを加速させる可能性がある。

ただし、ここでも重要なのは、

日銀の利上げだけが暴落の原因だったわけではない

ということだ。

すでに不安定だった市場に、

  • アメリカの景気後退懸念
  • 雇用統計
  • 株価の過熱感
  • 日銀の利上げ
  • 植田総裁の発言
  • 円キャリートレードの巻き戻し

などが重なった。

その結果、市場のポジションが一気に逆回転した。

ここから考えたのは、

市場は現在の金利だけではなく、将来の金利に対する期待で動く

ということだった。

金利が0.25%変わったこと自体よりも、

「これから日本の金利はどこまで上がるのか?」

という期待の変化の方が、市場に大きな影響を与えることがある。


金利は「円の魅力」を変える

ここまで考えて、金利の役割を少し整理できるようになった。

金利は、円を持つ魅力を変える。

日本の金利が上がれば、円を保有するメリットは大きくなる。

日米金利差が縮まれば、円を借りてドルを買う取引の魅力も低下する。

これは間違いない。

しかし、

金利は、実際に円を買う人のすべてではない。

実際の円の需給を変えるのは、貿易や投資でもある。

例えば、日本はエネルギーを輸入する。

原油を買うために、日本企業は円を売ってドルを買う。

これは円安圧力になる。

一方、日本企業が海外で稼いだ利益を日本に戻せば、外貨を売って円を買うことになる。

これは円高圧力になる。

日本の投資家がアメリカ株を買えば、円を売ってドルを買う。

外国人投資家が日本株を買えば、外貨を売って円を買う。

つまり、

金利は円を持つ魅力を変える。

貿易や投資は、実際の円の需給を変える。

この違いは重要だと思う。


日本は本当に「円を買う国」なのか?

ここで、さらに別の疑問が生まれる。

日本は海外に多くの資産を持っている。

日本企業は海外で利益を上げている。

日本には大きな対外純資産がある。

それなのに、なぜ円は弱いのか?

ここで大切なのは、

海外に資産があることと、そのお金が日本に戻ってくることは別だ

ということだ。

日本企業が海外で稼いだ利益を、さらに海外に再投資することもある。

日本の投資家が海外株を買い続けることもある。

つまり、日本が豊かで海外資産を持っていたとしても、現在の資金フローが円売りに傾いていれば、円安圧力は続く。

ここで、為替を「国の財産目録」だけではなく、

現在進行形の資金の流れ

として見る必要があると感じた。


では、なぜ日銀の利上げだけでは円高にならないのか?

結局、為替市場は単純に、

日本の金利が上がった。

だから円が買われる。

という仕組みではない。

市場は同時に、次のようなことを考えている。

  • 日本の金利は将来どこまで上がるのか
  • アメリカの金利は今後どうなるのか
  • 日本のインフレ率はどうなるのか
  • 実質金利はどうなるのか
  • 日本企業は海外投資を続けるのか
  • 日本の投資家は海外資産を買い続けるのか
  • 外国人投資家は日本に投資するのか
  • 日本はどれだけエネルギーを輸入するのか
  • 日本経済は成長するのか
  • 政府の財政は信頼されるのか
  • 10年後の日本は、今より強くなっているのか

だから、今ではこう考えている。

「金利差だけでも為替は説明できない。」

そして同時に、

「金利だけでは円は強くならない。」

とも思う。


金利は円の価格を動かす。国力は円の長期的な価値を支える

株式投資をしていると、どうしても企業を見るときの視点で国を見てしまう。

例えば、NC Ratioが2倍ある会社があるとする。

現金や有価証券が負債の2倍ある。

一見すると、非常に魅力的に見える。

しかし、その会社の事業が衰退していたら?

経営者が資本を有効に使えなかったら?

将来の成長が見えなかったら?

単純に、

「現金が多いから買い」

とはならない。

国も同じではないだろうか。

日本には、

  • 海外資産がある
  • 技術力がある
  • インフラがある
  • 民間資産がある
  • 優れた企業がある

しかし、それだけで将来の円の価値が保証されるわけではない。

投資家が最終的に考えるのは、

この会社は10年後にどうなっているのか?

だからだ。

国についても同じだと思う。

日本は10年後にどうなっているのか?

この問いに自信を持って答えられるかどうか。

それが、長期的な通貨の価値にも関係するのではないか。

自分は今、こう考えている。

金利は円の価格を動かす。

国力は円の長期的な価値を支える。

では、日本を本当に強くするには何が必要なのか?

ここから先は、金利や為替の話だけではなくなる。

日本の資産をどう使うのか。

資本をどう動かすのか。

エネルギーをどう確保するのか。

政治はどうあるべきなのか。

日本企業はどう競争力を取り戻すのか。

次の記事では、

「日本を強くするには、何が必要なのか?」

について考えてみたい。