企業分析をしていると、つい現預金や有価証券、PBR、含み資産といった「持っている資産」に目が向く。
もちろん、それらは企業価値を考えるうえで重要な指標。
しかし、最近ひとつ気になっていることがある。
資産は持っているだけで評価される時代なのだろうか。
東京証券取引所がPBR改善を求めるようになって以降、市場は企業に対して「資本をどう使うのか」を以前にも増して問いかけるようになった。
その流れの中で読んだのが、ダイヤモンド・オンラインの「私鉄各社の不動産の稼ぐ力」を比較した特集記事だった。
一見すると私鉄業界の分析記事だが、自分には、日本企業全体に共通するテーマを映し出しているように思えた。
土地を持つことより、土地で稼ぐこと
私鉄は鉄道会社というイメージが強い。
しかし現在では、駅ビルや商業施設、ホテル、オフィス、マンション開発など、不動産事業が利益の柱になっている会社も少なくない。
ダイヤモンド・オンラインでは、その収益性を「不動産ROA(不動産事業利益 ÷ 不動産資産)」という指標で比較していた。
この指標が面白いのは、「どれだけ土地を持っているか」ではなく、「その土地がどれだけ利益を生み出しているか」を評価している点だ。
資産の量ではなく、資産の稼ぐ力を見る。
この考え方は、私鉄だけに当てはまるものではない。
私鉄・不動産ROAランキング
ダイヤモンド・オンライン「【東西私鉄12社の明暗】不動産の『稼ぐ力』が最も低いのは京急!?」(2026年6月12日)をもとに作成。
| 順位 | 会社 | 不動産ROA |
|---|---|---|
| 1 | 阪急阪神HD | 約4.9% |
| 2 | 京王 | 約4.8% |
| 3 | 東急 | 約4.7% |
| 4 | 京阪HD | 約4.6% |
| 5 | 京成 | 約4.6% |
| 6 | 東武 | 約4.4% |
| 7 | 南海 | 約4.3% |
| 8 | 西武HD | 約4.3% |
| 9 | 相鉄HD | 約3.5% |
| 10 | 近鉄GHD | 約3.2% |
| 11 | 京急 | 約3.0% |
ランキングを見ると、不動産を多く保有している会社が必ずしも高い利益を上げているわけではないことが分かる。
企業価値を左右するのは、資産の規模ではなく、その資産をどれだけ利益へ変えられるかなのである。
なぜ差が生まれるのか
記事では、阪急阪神ホールディングスが高い不動産ROAを維持している理由として、梅田を中心とした再開発やオフィス、ホテル、商業施設の収益力を挙げている。
一方、近鉄や京急は大きな不動産資産を保有しているものの、利益率では差がついている。
つまり、「資産を持つこと」と「資産を稼がせること」は同じではない。
この違いは、鉄道会社だけではなく、日本企業全体にも当てはまる。
清原達郎さんなら、この数字をどう見るだろう
清原達郎さんの投資法は、企業が持つ資産価値に着目する。
- 時価総額より多い現預金はあるか。
- 有価証券はどれだけ保有しているか。
- 土地などの含み資産はどれほどあるか。
市場が見落としている資産価値を見つけることが、清原式の大きな特徴だ。
一方で、不動産ROAが見ているのは「資産価値」ではなく「資産効率」である。
この二つは似ているようで違う。
実際、自分がNC比率で見ている銘柄にも同じことを感じる。
例えば、日本伸銅はNC比率で見ると非常に魅力的な会社だ。
財務は健全で、ネットキャッシュは時価総額を大きく上回る。
しかし、ROEを見ると決して高い会社ではない。
資産は豊富にある。
一方で、その資産をどれだけ効率よく利益へ結び付けられているかという点では、まだ改善の余地があるようにも見える。
つまり、NC比率が高いことは「安全性」を示してくれる。
しかし、「稼ぐ力」まで保証してくれるわけではない。
資産価値と資産効率。
この二つを組み合わせて見ることで、企業分析はさらに深くなるのではないだろうか。
現預金の次に市場が見るもの
市場では現預金の活用が大きなテーマになっている。
- 配当。
- 自社株買い。
- 設備投資。
- M&A。
企業は積み上がった資本をどう使うのかが問われている。
しかし、日本企業が保有するアセットは現預金だけではない。
- 広大な遊休地。
- 低収益の賃貸資産。
- 老朽化したオフィス。
- 再開発できる土地。
これらも企業価値を左右する重要な資産である。
今後は、不動産についても「どれだけ持っているか」ではなく、「どれだけ利益を生み出しているか」が、より重視されていくのではないだろうか。
おわりに
投資家は「企業が何を持っているか」を見る。
しかし、市場は少しずつ「企業が持っている資産で、どれだけ利益を生み出せるか」を評価するようになっている。
今回の私鉄の不動産ROAランキングは、その変化を象徴するデータだった。
自分もこれまで、資産価値を重視して企業を見てきた。
その考え方はこれからも変わらない。
ただ、その上に「資産をどれだけ稼がせているか」という視点を重ねることで、企業分析はもう一段深くなる。
今回の特集は、そのことを改めて考えさせてくれる内容だった。
