自分には長年、二つの「確信」があった。
- 一つ目。終身雇用は日本のいいところだ。それを壊した小泉・竹中コンビは戦犯だ——そう信じて疑わなかった。
- 二つ目。デイトレーダーや短期の機関投資家は、長期投資家にとって百害あって一利なし。市場をノイズで汚染する存在だと思っていた。
チームFACTA『オリンパス症候群——自壊する「日本型」株式会社』を読んで、その両方が揺らいだ。
人材派遣は「雇用の潤滑油」だった
本書の中で、日本型雇用システムの硬直性が論じられている。
終身雇用・年功序列という構造は、一見従業員を守るように見えて、実は企業の新陳代謝を阻害し、組織を内側から腐らせていく——というのが本書の論点の一つだ。
そこで出てくるのが人材派遣の役割だ。
米国では労働市場の流動性が高く、企業は必要な人材を必要なときに調達できる。
人材派遣会社はその潤滑油として機能している。
一方、日本の場合、オリンパス型の企業では内部の人事が硬直化し、能力ある者が報われず、派閥政治だけが強化されていく。
読む前の自分は「派遣労働=不安定雇用の拡大=小泉・竹中の罪」という図式で考えていた。
でも本書を読んで、硬直した雇用構造こそが日本型企業を自壊させる本質的な問題で、流動性には存在意義があると気づいた。
これは投資にも接続する
もう一つの確信も揺らいだ。
短期筋——デイトレーダーや機関の短期フロー——は長期投資家にとって百害あって一利なし、というやつだ。
でも「人材派遣=雇用の潤滑油」という構造を見て、類推が走った。
短期筋も、市場の潤滑油として機能しているんじゃないか。
流動性を供給し、価格発見を助け、スプレッドを縮める。
長期投資家が安く買えるのも、売りたいときに売れるのも、短期筋が市場に参加しているからだ。
彼らがいなければ、自分のような小型株投資家は板が薄くて身動きが取れなくなる。
「邪魔な存在」だと思っていたものが、実は自分の投資環境を支えていた。
ベイジアン的思考のトレーニング
この二つの気づきに共通するのは、事前確率を証拠によって更新するというプロセスだ。
確信は、思考停止の別名かもしれない。
「小泉・竹中は戦犯」「短期筋は悪」——どちらも感情的に気持ちよく確信できる命題だった。でも一冊の本が、その確信に証拠を突きつけた。
投資で大事なのも同じことだと思う。相場に向き合うとき、自分の見立てを「仮説」として持ちながら、新しい情報が来たら素直に更新できるか。
確信を持ちながら、それを壊す証拠を探し続けられるか。
『オリンパス症候群』は、そのトレーニングになった一冊だった。
