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読書感想:『世界の秩序が変わるとき』日本は「勝てる席」に座れたがカードは配られてない

2026/02/14

世界は、単なる景気サイクルではなくルールそのものが書き換わる歴史的転換点に差し掛かっている。

日経平均が高値を更新し、政府と企業が新戦略に舵を切るなか、本書『世界の秩序が変わるとき』は日本の立ち位置を大胆に再解釈している。

その核心は「新自由主義から安全保障・地政学中心の時代への移行」であり、投資家が今取るべき視点を鋭く示唆している。


トランプ現象は「新自由主義の転換点」

2017年から始まったトランプ政権は、単なる政権交代ではなかった。

  • グローバル化
  • 自由貿易
  • 市場万能

という新自由主義の源流を終わらせ、 国家安全保障を軸とする経済秩序の再編をスタートさせた。

具体的には、

  • 関税政策
  • 対中強硬
  • サプライチェーン再構築

がセットになり、単純な効率追求より安全を優先する世界へと変わった。

この変化は比喩で言えば、

アメリカ=カジノのオーナー
日本=ただのプレーヤーだったが、ゲームが変わった今は“勝てるテーブル”へ移動

という構図になっている。

その“役割証明”が、半導体投資だ。

TSMCは熊本で3nmチップ生産への約2.6兆円(約$17B)の投資計画を進めると発表した。

これは日本が先進AIチップ製造に名実ともに組み込まれる象徴的な出来事だ。

政府はRapidusへも巨額支援を継続しており、公共+民間で10兆円超の産業支援構想が進むと見られている。

ただし、これは「選ばれる可能性」を示しているだけで、オーナー=ゲームのルールデザイナーは依然アメリカである。

インド太平洋戦略、QUAD、IPEFなどは政策枠組みであり、条約ではない上、完全な独立戦略とは言えない。


日本は「運のある国」という立ち位置か

ヘッジファンド界の格言、

「頭のいい奴は腐るほどいる。欲しいのは運のある奴だ」

は的を射ている。

日本はここ10年の国際政治の変化で、

  • 米中対立
  • サプライチェーン再編
  • 安全保障と経済の接近

という三つのベクトルが揃い、極めて稀な逆風から追い風への“構造変化”に直面している。

仮に構造優位があるとしても、これは外的環境がもたらした「ポジショニング」であり、
内在的な強さではない。

だからこそ、次の章が重要になる。


日本は危機処理を学んでこなかった

斎藤ジン氏が主張する要点はシンプルだ。

「日本は戦後、本格的な金融機関のデフォルトを経験していない。
だから危機処理の制度設計が未熟であり、短期安定のため延命策を取り続けた。」

90年代の不良債権処理は公的資金注入で乗り切ったが、長期デフレを固定化する副作用を生んだ可能性がある。

これは市場参加者として見逃せない。

短期安定=長期硬直化
この構造は金融・企業の意思決定に深く刻まれている。


ソロス理論:乖離が拡大する時、相場は動く

ジョージ・ソロスはこう言った。

「システムと現実の乖離が最も大きくなる瞬間に相場は激しく動く。」

日本の典型的イメージは「デフレ国家」だ。

だが現実には、

  • 春闘での賃上げ率は30年ぶりの高水準(2023年 約3.6%、2024年 5%超)
  • 企業の設備投資が底堅い(経済白書でも指摘)
  • 政府は経済安全保障に巨額投資

といった動きがある。

一方で、実質賃金は物価上昇に追いついておらず、乖離はまだ充分には解消していない。
このズレこそが投資機会であり、同時にリスクでもある。


BISビュー vs FEDビュー

世界の金融政策を見るには二つのレンズが必要だ。

  • BIS View:国際金融システム全体の安定を重視。
  • FED View:米国国内の景気・雇用・物価を最優先。

同じ利上げでも、FEDはインフレ抑制を、BISはドル循環とシステム安定を見ている。
このズレが、クロスボーダー投資や為替政策に大きく影響する。


高度成長の隠れたレバレッジと失われた30年

戦後日本は米国の軍事支援という“暗黙のレバレッジ”を得て、経済成長に集中できた。
それがGDP世界2位を築いた背景だ。

だが現在は防衛費がGDP比2%に迫るまで拡大し、元のレバレッジは消えている。

失われた30年は、政策判断の結果として

  • 賃金を抑制
  • 雇用を守る
  • 成長投資を後回し

という「全員でやせ細る戦略」を選択し続けた時期でもある。

その副作用として、企業の内部留保は600兆円を超え、労働分配率は歴史的低水準が続くという課題を生んでいる。


中国の変化とリスク

中国は2001年のWTO加盟時に民主化期待があったが、実際には国家資本主義が強まった。
若年失業率の数値は公表が止まったが、実体は労働市場のアンバランスが続くと見られている。

また、SWIFT排除は理論上強烈だが、中国はCIPSなど代替インフラを整えつつあり、
単純な“即死”シナリオではなく、「甚大な損失」が現実的だ。


「脱デフレ」からルイス転換へ

脱デフレ仮説の根拠は二つ。

  1. 経済安全保障重視への構造転換
  2. 労働供給制約

人手不足倒産が話題になるように、日本の労働市場は逼迫している。
ベア(ベースアップ=基本給自体の引き上げ)が復活しているのは象徴的だ。

ただし、実質賃金の持続的なプラス化が確認されなければ、ルイス転換はまだ仮説の段階に留まる。


世界は再びブロック化へ

冷戦後の一極支配が終わり、世界はブロック化の様相を強めている。

NATOは拡大し、QUADやIPEFなどが安全保障+経済統合の枠組みとして機能する。
日本は技術・サプライチェーンの中核として位置付けられているが、これは「役割」であり、必ずしも成功の保証ではない。


結論:日本は“勝てる席”に近づいたが、まだ“勝負”は始まっていない

日本は確かに、

  • 地政学的追い風
  • 安全保障投資
  • 労働市場構造の変化

という三つの追い風を得た。

だが同時に、

  • 財政制約
  • 少子高齢化
  • 実質所得の弱さ
  • 内部留保の活用不足

という重石を抱えている。

したがって結論はこうだ。

日本は“勝てる席”に座れる可能性が高まった。
だがディーラーはまだカードを配っていない。

投資家に必要なのは

  • どのデータがそのカード配布のサインか
  • どの収益領域がそれを先取りするか

ここを数字で追い続ける冷静さだ。📈