世界は、単なる景気サイクルではなくルールそのものが書き換わる歴史的転換点に差し掛かっている。
日経平均が高値を更新し、政府と企業が新戦略に舵を切るなか、本書『世界の秩序が変わるとき』は日本の立ち位置を大胆に再解釈している。
その核心は「新自由主義から安全保障・地政学中心の時代への移行」であり、投資家が今取るべき視点を鋭く示唆している。
目次
トランプ現象は「新自由主義の転換点」
2017年から始まったトランプ政権は、単なる政権交代ではなかった。
- グローバル化
- 自由貿易
- 市場万能
という新自由主義の源流を終わらせ、 国家安全保障を軸とする経済秩序の再編をスタートさせた。
具体的には、
- 関税政策
- 対中強硬
- サプライチェーン再構築
がセットになり、単純な効率追求より安全を優先する世界へと変わった。
この変化は比喩で言えば、
アメリカ=カジノのオーナー
日本=ただのプレーヤーだったが、ゲームが変わった今は“勝てるテーブル”へ移動
という構図になっている。
その“役割証明”が、半導体投資だ。
TSMCは熊本で3nmチップ生産への約2.6兆円(約$17B)の投資計画を進めると発表した。
これは日本が先進AIチップ製造に名実ともに組み込まれる象徴的な出来事だ。
政府はRapidusへも巨額支援を継続しており、公共+民間で10兆円超の産業支援構想が進むと見られている。
ただし、これは「選ばれる可能性」を示しているだけで、オーナー=ゲームのルールデザイナーは依然アメリカである。
インド太平洋戦略、QUAD、IPEFなどは政策枠組みであり、条約ではない上、完全な独立戦略とは言えない。
日本は「運のある国」という立ち位置か
ヘッジファンド界の格言、
「頭のいい奴は腐るほどいる。欲しいのは運のある奴だ」
は的を射ている。
日本はここ10年の国際政治の変化で、
- 米中対立
- サプライチェーン再編
- 安全保障と経済の接近
という三つのベクトルが揃い、極めて稀な逆風から追い風への“構造変化”に直面している。
仮に構造優位があるとしても、これは外的環境がもたらした「ポジショニング」であり、
内在的な強さではない。
だからこそ、次の章が重要になる。
日本は危機処理を学んでこなかった
斎藤ジン氏が主張する要点はシンプルだ。
「日本は戦後、本格的な金融機関のデフォルトを経験していない。
だから危機処理の制度設計が未熟であり、短期安定のため延命策を取り続けた。」
90年代の不良債権処理は公的資金注入で乗り切ったが、長期デフレを固定化する副作用を生んだ可能性がある。
これは市場参加者として見逃せない。
短期安定=長期硬直化
この構造は金融・企業の意思決定に深く刻まれている。
ソロス理論:乖離が拡大する時、相場は動く
ジョージ・ソロスはこう言った。
「システムと現実の乖離が最も大きくなる瞬間に相場は激しく動く。」
日本の典型的イメージは「デフレ国家」だ。
だが現実には、
- 春闘での賃上げ率は30年ぶりの高水準(2023年 約3.6%、2024年 5%超)
- 企業の設備投資が底堅い(経済白書でも指摘)
- 政府は経済安全保障に巨額投資
といった動きがある。
一方で、実質賃金は物価上昇に追いついておらず、乖離はまだ充分には解消していない。
このズレこそが投資機会であり、同時にリスクでもある。
BISビュー vs FEDビュー
世界の金融政策を見るには二つのレンズが必要だ。
- BIS View:国際金融システム全体の安定を重視。
- FED View:米国国内の景気・雇用・物価を最優先。
同じ利上げでも、FEDはインフレ抑制を、BISはドル循環とシステム安定を見ている。
このズレが、クロスボーダー投資や為替政策に大きく影響する。
高度成長の隠れたレバレッジと失われた30年
戦後日本は米国の軍事支援という“暗黙のレバレッジ”を得て、経済成長に集中できた。
それがGDP世界2位を築いた背景だ。
だが現在は防衛費がGDP比2%に迫るまで拡大し、元のレバレッジは消えている。
失われた30年は、政策判断の結果として
- 賃金を抑制
- 雇用を守る
- 成長投資を後回し
という「全員でやせ細る戦略」を選択し続けた時期でもある。
その副作用として、企業の内部留保は600兆円を超え、労働分配率は歴史的低水準が続くという課題を生んでいる。
中国の変化とリスク
中国は2001年のWTO加盟時に民主化期待があったが、実際には国家資本主義が強まった。
若年失業率の数値は公表が止まったが、実体は労働市場のアンバランスが続くと見られている。
また、SWIFT排除は理論上強烈だが、中国はCIPSなど代替インフラを整えつつあり、
単純な“即死”シナリオではなく、「甚大な損失」が現実的だ。
「脱デフレ」からルイス転換へ
脱デフレ仮説の根拠は二つ。
- 経済安全保障重視への構造転換
- 労働供給制約
人手不足倒産が話題になるように、日本の労働市場は逼迫している。
ベア(ベースアップ=基本給自体の引き上げ)が復活しているのは象徴的だ。
ただし、実質賃金の持続的なプラス化が確認されなければ、ルイス転換はまだ仮説の段階に留まる。
世界は再びブロック化へ
冷戦後の一極支配が終わり、世界はブロック化の様相を強めている。
NATOは拡大し、QUADやIPEFなどが安全保障+経済統合の枠組みとして機能する。
日本は技術・サプライチェーンの中核として位置付けられているが、これは「役割」であり、必ずしも成功の保証ではない。
結論:日本は“勝てる席”に近づいたが、まだ“勝負”は始まっていない
日本は確かに、
- 地政学的追い風
- 安全保障投資
- 労働市場構造の変化
という三つの追い風を得た。
だが同時に、
- 財政制約
- 少子高齢化
- 実質所得の弱さ
- 内部留保の活用不足
という重石を抱えている。
したがって結論はこうだ。
日本は“勝てる席”に座れる可能性が高まった。
だがディーラーはまだカードを配っていない。
投資家に必要なのは
- どのデータがそのカード配布のサインか
- どの収益領域がそれを先取りするか
ここを数字で追い続ける冷静さだ。📈
